| 善き人のためのソナタ |
| <ストーリー> 舞台は1984年、ベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツ。共産主義の理想を重んじ、党に忠実な国家保安省[シュタージ]に属するヴィースラー大尉(ウルリッヒ・ミューエ)は、シュタージ文化部部長から、劇作家ドライマン(セバスチャン・コッホ)とその恋人クリスタ(マルティナ・ゲデック)の24時間体制の監視を命じられる。早速、ヴィースラー大尉はドライマンの家のあらゆる箇所に盗聴器を仕掛けた。そして屋根裏に設けられた監視室で、彼等2人の反体制的な証拠をつかもうと毎日の様に盗聴器に耳を傾けるのだが、、、 |
| 正真正銘の人間ドラマ 冷戦時代の東ドイツで政府が国民を監視していたと言う事実。遠い昔の一国の歴史話にも思えますが、ここで描かれているのは、つい最近の出来事なのです。そんな冷たく非人道的な独裁政権の実態を描く作品ではありますが、精神的に来る様な重々しい雰囲気はなく、逆に暖かさを感じさせるドイツ映画です。 ドイツ映画と聞いて一番に思い出すのが大学の実験で看守役と囚人役に分けられた人間の精神状態を描く[es エス]。まさに本作はそれの逆を行く作品でしたね。あとジャンルは違いますが、キッチンの片隅(に設置された台)から24時間日常を監視する家具会社の男と、監視される男の奇妙な交流を描いた『キッチン・ストーリー』と言う映画も思い出しました。ドイツ映画にはドイツの暗い過去と独裁者の人間性を描いた『ヒトラー 最期の12日間』と言う作品がありました。この『善き人のためのソナタ』は同じく人間性を問いかる作品ですが、前者とは違ってとても感情移入がしやすく、押し付ける様な感じは一切ありません。印象こそ小粒ですが、与えてくれる感動は大きいです。ドイツ映画の印象をガラリと変えてくれた管理人お薦めの秀作です。 本作こそ正真正銘の[人間ドラマ]と言えるでしょう。 監視する側の男は、対象となる男女の会話や愛、そして流れて来る[音楽]を耳にする事によって[心]を動かされていきます。音を立てる事無く、静かにジワジワと動かされていくのです。その辺の心情描写がとても上手いです。また、本作は過去のドイツの暗い部分を暴こうとしているだけ無く、そんな状況の中で生きている人達の[自由]への想いや希望、本当の人間らしさを知ろうとする心情をも描いています。どれだけ権力で抑えられていても、人間はやはり[自由]を求めるものです。[自由]を奪った人間が、奪われた側に[自由]についてを教えられる、と言う展開は[皮肉]とも言えますが、この映画の中では、その[皮肉]な部分こそが大切で、人を人として導く[希望の光]なのです。 ウルリッヒ・ミューエが演じたヴィースラー大尉は、それほど大柄でも無く[権力者]な顔つきはしていません。友達もあまりいなそうですし、とても寂しそうでした。監視室で盗聴する姿はどこか哀愁が漂っていて、まるで政府の操り人形にも思えて少し悲しくなりました。 そして、監視される側の劇作家ドライマンと恋人で舞台女優のクリスタの幸せな生活も色々な展開を見せていきます。権力と愛との間に揺れ動く恋模様は切なくも情熱的でした。それを一部始終、監視していたヴィースラーが最後に取った行動は[正義]では無く、[人]としての行為だったと思います。 全てが終り、時同じくして[ベルリンの壁]が崩壊します。国民からは歓喜の声が挙がりますが、政府側にしたヴィースラーには笑顔はありませんでした。心に穴を開けられた様な感じです。その姿はまるで中枢機能を失ったロボットの様な哀しさがありました。 そこで幕を閉じる事はなく、もう少しだけ物語は続きました。最後の最後、そこにはとても暖かくて希望に満ちたエンディングが用意されていました。その場面を迎えた瞬間、今まで抑えてきた熱いものが一気に溢れだして来ました。このワンシーンに語りたい事、伝えたい事、全てが集約していると考えても良いでしょう。 『善き人のためのソナタ』。言葉では表せない大切な[何か]を教えてくれる素晴らしい映画です。 |
| 評価:★★★★★ 原題:DAS LEBEN DER ANDEREN 監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 出演:ウルリッヒ・ミューエ、セバスチャン・コッホ、マリア・ジーラント:マルティナ・ゲデック、他 2006年度:ドイツ作品/上映時間:2時間18分/鑑賞劇場:シネ・リーブル大阪(大阪・梅田) |
| レビューの評価ポイントは ★(BAD)
〜 ★★★★★(GOOD) の10段階評価です ★・・・1点 ☆・・・0.5点 ★★★★★・・・特星/個人的最高傑作 |